夏になると読みたくなる!ロングセラーの和風ファンタジー!
基本情報
作 | 長谷川 摂子 |
絵 | 降矢 なな |
出版社 | 福音館書店 |
おすすめ年齢 | 3歳~ |
初版 | 1990年3月15日 |
夏にぴったりのファンタジー絵本だよ。
あらすじ
へんてこな世界に迷い込んだ、少年の運命は?
かんたがお宮にある大きな木の根っこの穴から落ちて訪れた国は、何ともへんてこな世界でした。そこの住人“もんもんびゃっこ”“しっかかもっかか”“おたからまんちん”とかんたは仲良しになり、時のたつのを忘れて遊び回ります。けれどもすでに夜。遊び疲れてねむった3人のそばで、心細くなったかんたが「おかあさん」と叫ぶと……躍動することばと絵が子どもたちを存分に楽しませてくれるファンタジーの絵本です。
めっきらもっきら どおん どん|福音館書店 (fukuinkan.co.jp)
みどころ!
1.扉絵の既視感
扉絵をじっくり見てみると、なんとも懐かしい気持ちになります。
もくもくと湧き上がる入道雲。そして田んぼに囲まれた道を歩く短パンの少年の手には先が二股に分かれた木の枝が握られています。影が真下に落ちているので時刻は丁度正午くらいでしょうか。
もう少しで夏休みが終わってしまう寂しさを抱えながら、遊ぶ友達を探しに外へ出てみたものの、あいにく今日に限って誰にも会わない。有り余る時間の使い方が見つからず、焦燥感と孤独感に少し苛立っている。
歩いている道をもう少し行くと、きっと早朝に行けば立派なカブトムシが取れそうな小さな森があり、森の中には木陰の気持ちいい小さなお宮がある。
だいぶ、個人の過剰な解釈が入ってしまいましたが、おおむねこんな風な扉絵になっています。(笑)
なんとなくこんな半日を過ごしたような記憶はないですか?少年時代に過ごした夏を閉じ込めたようなこの扉絵は何度みても泣けてきます。
ですがそれと同時に、少し怖い印象の表紙からこの扉絵を見ると、誰もいない街の不気味さが際立ち、これから不思議な事が起こりそうな予感を強めます
振矢ななさんの画は優しさと力強さをあわせ持ちつつ、馴染みやすくて本当に大好きです!
2.口ずさみたくなる神フレーズ!
主人公の少年が以下のような歌を歌います。
ちんぷく まんぷく あっぺらこの きんぴらこ
じょんがら ぴこたこ
めっきらもっきら どおんどん
すごく楽しい歌ですね。ここで不思議なタイトルの伏線を回収します。そしてこの歌が物語の重要なカギとなっていたのです。どういう意味だろうと考えるのはナンセンスです。無意味でいて、心が躍るからいいのです。
この歌がもちろん子ども達も大好きです!声に出して読んでみると不思議な楽しさがあります。もちろんこれまでに聞いたことのないフレーズですが、どこか日本的で何故か引き込まれる不思議な魅力があります。
この時の主人公のやけになっている表情も力強くて良いですね!
一応譜面もありますが、まずは自分のインスピレーションで歌ってみても楽しいですよ!
みんなは、どんな風に読んでみたい?
3.個性豊かな登場人物
日本の神様をモチーフにしたような3人のお化けたちは、ちょっぴり怖いけれど、どこか馴染みやすく愛着の沸くキャラクターです。このキャラクターデザインが秀逸だなといつも思います。
また、主人公の少年とあまり変わらない知能レベルです。遊ぶ事が大好きで、泣いてしまったり、喧嘩もするしでもう大変!ですがそんな3人に主人公もすぐに心を許していきます。
名前も「もんもんびゃっこ」「しっかかもっかか」「おたからまんちん」と響きの愉快な名だと思いませんか?
もんもんびゃっこは長谷川さんの創作名らしいですが、あとの2人は古来から伝わるあやし言葉をそのまま当てたそうです。
子ども達の中にも推しキャラがいたりするのかな?
4.4人の行動は、子ども心そのもの
長谷川さんが、月間絵本の折り込み付録でこんなコメントを残しています
いつでも、とんだりはねたりしている子どもたち、手にしっかり握れる小さな宝物に心を熱くしている子どもたち、大声でわめきちらす子どもたち、何か怖いことないかな、と胸をどきどきさせている子どもたち、友だちが好きで好きで仕方がないくせに時々母さんが恋しくなる子どもたち、そんな子どもたちと、この絵本でわたしは思いきり遊びました。さあ、今度は子どもたちがこの絵本で遊んでくれる番です。遊ぼうね、みんな、みんな!
(「こどものとも」1985年8月号 折り込みふろくより)
作者のことば 長谷川摂子さん『めっきら もっきら どおんどん』|ふくふく本棚|福音館書店公式Webマガジン (fukuinkan.co.jp)
何かドキドキする事を探している子ども達にも読んであげたくなる本です。
保育士さんも保護者さんも、きっと共感できて胸が熱くなるコメントですね。
レビュー・感想
ファンタジーだが、リアリティーを感じた
この本は、私が保育士として絵本が好きになるきっかけになった本です。
この本はファンタジーの世界へ行く→最後は現実へ戻ってくるという いわゆる、行きて帰りし物語構造の本ですが、これが幼児のファンタジー絵本を選ぶ際にはとても大切な事であると私は思っています。
子ども達はこの構造があるから、安心してファンタジーの世界へ没入できるし安心してファンタジーの世界から帰ってこられるのではないでしょうか。
またこの本は、大人になってしまった私たちも、十分なリアリティーを持ってファンタジーの世界へ入っていける本になっているとおもいます。まずお宮の近くに祀られてあるご神木にあいた穴(=うろ)を入口にして、異世界へ到達するのが妙にリアルな感じがします。日本人が古来より八百万の神様を信仰してきたという歴史を持つからでしょうか?それとも、このような現象が”神隠し”として語り継がれてきたからでしょうか?
なんだか、実際に起こってもおかしくないような不思議な感覚がありました。私たちの文化に溶け込んだリアリティーを持っている本だと思います。
関わりたい!という子どもの想いは物を与えても解決しない
「遊ぶともだちが誰もいない」という状態から「あそぼう!あそぼう!」と求められる場面の対比がお話にリズムを生んですごく良いと思いませんか?最後の場面、主人公はたくさんのおもちゃに囲まれています。そこには、彼らとあそんだ風呂敷も、縄跳びも、お宝もあるのに主人公はとてもつまらなさそうです。
主人公ははじめから一貫して”誰かとかかわりたい!”という思いを抱いています。そしてお化けたちと遊んでいる時の表情はとても生き生きしていて子どもらしいです。
子ども達はこうやって、人と関わって笑顔を交わしたり、遊びを通して思いを共有する事そのものに喜びを感じるのではないでしょうか?それなのに我々大人はすぐに、何かものを与えて解決しようとする…おもちゃがたくさんあるだけでは埋められない素敵な欲求に私たち大人も、3人のお化けたちのように向き合えたら素敵だな~と思いました。
おばけたちに会いたいな
全体的に暗めな絵のタッチに子ども達は少し「怖いな」という気持ちも抱えながら物語の世界に入っていきます。
けれど、かんたが何度も神社に行ったように、子ども達も3人のおばけ達にまたあいたくて何度だって絵本を開くのではないかなと私はおもいます。
子ども達が手に取ってそして「読んで」と持ってきたら、何度だって不思議な世界へ連れて行ってあげて下さい。
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