冬になると読みたくなる、不朽の名作。
基本情報
訳 | 内田 莉莎子(うちだ りさこ) |
絵 | エウゲーニ・M・ラチョフ |
出版社 | 福音館書店 |
おすすめ年齢 | 3歳~ |
初版 | 1965年 11月 1日 |

なんだか心も温まる絵本だね~
あらすじ

動物がみんなで入って、手袋の中は満員!
おじいさんが森の中に手袋を片方落としてしまいます。雪の上に落ちていた手袋にネズミが住みこみました。そこへ、カエルやウサギやキツネが次つぎやってきて、「わたしもいれて」「ぼくもいれて」と仲間入り。手袋はその度に少しずつ大きくなっていき、今にもはじけそう……。最後には大きなクマまでやって来ましたよ。手袋の中はもう満員! そこにおじいさんが手袋を探しにもどってきました。さあ、いったいどうなるのでしょうか?
みどころ

口から出やすい言葉
「だれだ、てぶくろに すんでいるのは?」
「くいしんぼねずみと ぴょんぴょんがえると はやあしうさぎと おしゃれぎつねと はいいろおおかみと きばもちいのしし あなたは?」
— 絵本「てぶくろ」
この場目も、非常に長いセリフが含まれていますが、耳にスッと入ってくるような不思議なリズムがありますね。
子どもも、読み聞かせに慣れていない大人も、自然とスラスラ言える文章の絵本です。これは、絵本の大切な要素でもあります。このようにてぶくろは、文章が秀逸な絵本の1つと言えます。

良い絵本は、読みやすい!
効果的な描写
冷静に考えると、イノシシが手袋に入るなんてあり得ない事です。でも、絵本を通してみると不思議と違和感がないのです。
この物語は、もともとウクライナの民話です。素話をする上ではある程度のファンタジーも許容されやすいですが、それを絵にしてしまうと無理やり感が出て、子ども達が違和感を感じてしまう要因の1つになりかねません。これが昔話の絵本化が難しい要因の1つでもあります。
ですが、この絵本は、
- 1つの動物が来る事に、手袋を描く方向を切り替える(構図の変化)
- 少しずつ、手袋をリフォーム工事していく様子を描く(虚構の世界へ入りやすい仕掛け)
という2つの工夫によって、子ども達に「本当にあり得そう」と思わせる魅力を持ち合わせているのだと思います。
手袋に、いきなり「イノシシが入りました」というのでは「嘘だ。あり得ない。」と思うけれど、小さな動物から始まり、だんだん大きな動物が入ってくる過程の中で、その絵が効果的に描写される事によって読み手にとって本当の話になっていくのだと思います。
むしろ、嘘の話を絵が本当にするような感覚の天才的な描写力です。

ずっと同じ場面で繰り広げられる物語なのに、退屈しないね!
手袋の中に”生活”がある
作中に登場する手袋は、ウサギが入ったあとから”家化”していきます。現実的にも無理がある動物あたりから虚構の世界に変化するこの繊細な構成が本当によく考えられた絵本だなと思います。
また、手袋には煙突が取り付けられ、そこから小さい煙が上がり始めます。物語が進むにつれてその煙の量は少しずつ増えて、中の生活を想像させます。もしかしたら暖炉で温まっているのかも知れないし、料理を作っているのかも知れない。中のあたたかな様子をこの煙突で表現しているように思います。
ですが、一貫して中の様子を見る事は出来ません。この隠された部分こそが子ども達の想像の余地であり、空想の可能性だと思います。実際、園の子ども達も手袋の中の様子を想像しては話をしてくれます。
また、はじめにネズミが「ここで暮らす事にするわ」と発言します。このセリフが子ども達に生活を想像させる重要な一言であるように思います。

皆を受け入れていく、仲良しの動物たち!その優しさが尊い!
のっそりぐまはどう入る?
最後に熊が手袋に入りますが、実は熊が入った後の様子は絵として描かれえていません。
1匹の動物が暮らす(増える)ごとに、1つの工夫がされてきたこの絵本ですが、熊が入った後にはどのような手袋になったのでしょうか?
ここを描き切らずに、子ども達に手渡されています。皆さんならどんな手袋を想像しますか?

ほんの端っこってどこだろう・・・?笑
寒さを伝える”絵”
この物語が寒い日だという事は、文章の中では語られていません。
しかし、しんしんと雪が降り体が心から冷えるような寒い日である事は、絵がよく語ってくれています。深く吸い込まれるような、暗めの背景描写がその寒さをよく表現してくれていますね。
この寒さが絵で語られる事で、動物たちの持つ優しさ(心の温かさ)、そして手袋の中の温かさが強調されていくのではないでしょうか。この対比があるからこそ、このもの語りの持つあたたさが心に残るのだと思います。

見れば見るほど引き込まれる!美しい背景にも注目してね♪
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最後のページには、一番初めに描かれたものと同じ手袋が小さく描かれています。
おじいさんにとっては、何事もなかったかのようにあっけなく物語は終わっていきます。子ども達はここで空想の世界から、現実の世界に戻ってきます。
そして、雪の積もり方を見てみても、まったく時間が経過していないように思えます。しかし動物たちが次々と入ってきたその時間経過はきっと子ども一人ひとりは違う風にとらえています。
ほんの一瞬の空想の出来事だったのか、それとも1時間程度の物語だったのか。はたまた、1週間くらいのスケールだったのか。どんな解釈にも合う良いラストだなと個人的には思います。

同じ絵だけど手袋に対する印象は、最初と最後で全然違うね!
レビュー・感想

私も幼い頃に、この絵本を読んだ記憶があります。しかし、なぜだか大人になって記憶があいまいになり「おじいさんは手袋をみつけたが、動物たちを見てそっと森においていきました」みたいな終わり方だったような気がしていたのです。
しかし、保育士になり改めて絵本を見てみると何事もなかったかのようにあっさりと物語は終わり、とても混乱したのを覚えています。でも何度か子ども達と一緒に読んでいると、この終わり方がすごくしっくりきます。
実際に、子ども達と一緒に読むときにはお互いにとても あたたかい気持ちになり、それを共有している事が分かります。動物たちの温かさに触れ、絵の温かさを体感し、そしてその想いを共有して体験していける。このてぶくろはそんな魅力がたくさん詰まったいい絵本だなと思います。
また、劇化しやすくペープサートや人形を保育室に用意するだけで楽しく再現してくれる子ども達の姿を見る事も出来ると思います。
おせっかい考察:犬は猟犬?
たくさんの見どころがあるこの絵本ですが、あまりにあっさりとした終わり方に戸惑う大人も多いようです。
そしてこのラストシーンは大きな謎を残して、多くの大人を困らせました。それは「なぜ犬は仲間に入れてもらえなかったのか」という事です。
この犬の存在を考察した説で有名なものに、おじいさんが猟師だったのではないかというものがあります。その根拠は以下の4つです。
①まず、はじめのシーンで犬はおじいさんの後をついてくるようにして森に入ってきました。真冬の寒い時期、しかも真っ暗な時間帯に楽しい散歩にきたとも思えませんね。ではおじいさんと犬は何をしに来たのでしょうか?
②また、最後のシーンでこいぬはおじいさんより先に駆け出して手袋を見つけては「わんわんわん」と吠えています。しかもただ吠えているだけでなく「ほえたてています」と絵本には表現してあり、激しく吠えている様子が分かります。
③そもそも、こんなに寒い日に手袋を落としてすぐに気が付かないものでしょうか?また、どうやったら手に付けている手袋が落ちてしまうのでしょうか?おそらく、おじいさんは、何等かの作業をするために、右手の手袋を外したのだとおもいます。それなら、手袋が落ちた理由もすぐに気が付かなかった理由も納得できますね。また、描かれている手袋は指が分かれておらず猟銃を扱えない形状です。
④そして、冬は猟師の活動期間です。葉が落ちてよく森が見通せて、人や他の動物が少ない冬に、冬眠しない鹿や猪を狩るというのが猟師の文化でもあります。つまり、時期も合致しているのです。
これら4つの理由を考えると、動物たちが「慌てて這い出して逃げた」理由も「犬が動物たちと話が出来なかった」理由にも意味が含まれてきます。
もちろん、子ども達にこんな事を説明する必要は全くありませんが、大人が絵本を考察するのもたまには楽しいものですね。皆さんは、どう思いますか?

深く考えて必要以上に悲観的にとらえたり、理屈で考えすぎなくてOK!たまに深読みするは楽しみ方のほんの1つ。子どもと読む際には、純粋に物語「てぶくろ」の世界を楽しみましょう♪
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