はじめてに挑戦する、等身大の5歳児が描かれた名作。
基本情報
作 | 筒井 頼子 |
絵 | 林 明子 |
出版社 | 福音館書店 |
おすすめ年齢 | 3歳頃~ |
初版 | 1977年4月1日 |
保育園にも高確率で置いてある傑作だね!
あらすじ
子どもの心の動きを鮮やかに描いた絵本
みいちゃんはママに頼まれて牛乳を買いに出かけます。自転車にベルを鳴らされてどきんとしたり、坂道で転んでしまったり、ひとりで歩く道は緊張の連続です。坂をあがると、お店につきました。お店にはだれもいません。みいちゃんは深呼吸をして、「ぎゅうにゅうください」と言いました。でも、小さな声しかでません。お店の人は、小さいみいちゃんには気がつかないみたい……。小さな女の子の心の動きを鮮やかに描いた絵本です。
はじめてのおつかい|福音館書店 (fukuinkan.co.jp)
みどころ !
1. 黄金タッグの誕生作!
この作品はのちに、「おでかけのまえに」や「とんことり」といった傑作を生みだす事になる筒井頼子さんと林明子さんの黄金タッグによる作品です。そして実はこの2人がタッグを組んで絵本を作るのも、この「はじめてのおつかい」が”はじめて”なんだそうです。
これが初タッグとは、、、恐るべし、、、
2. だれもが共感できる“はじめて”のドキドキ! そしてウルウル😢
“はじめてのおつかい”をお願いされたみぃちゃんの揺れ動く気持ちや、嬉しさと不安が入り混じる心情には大人も子どもも、きっと誰もが共感できるはず。だって”はじめて”というのは誰だって経験する事で、誰にとっても特別な出来事ですからね。
みぃちゃんの小さなチャレンジには一緒にドキドキ・ハラハラそしてウルウルさせられてしまいます。特にみぃちゃんが「牛乳くださぁい!」と大きな声を出そうとしているシーンは思わず「がんばれ!」と胸が熱くなってしまいます。
子どもはハラハラ・大人はウルウルできる作品だよ!
3. 子どもの世界ってこんなにドラマチック!
日常のささいなチャレンジも子ども達にとってはこんなにドラマチック!!道中はいつも慣れた道なのに一人で歩くと不安でいっぱい…繊細に描かれたみぃちゃんの表情からそのドキドキがダイレクトに伝わってきます。
何気ない毎日を精一杯に生きていた子ども時代の気持ちや感覚が詰め込まれたような作品だからこそ、子ども達もどこか他人事じゃない親密感を覚えるのかなーと思います。絵本を見入る子ども達の表情はいつも真剣そのものです。そして、大人の私たちが読むとそんな子ども時代の気持ちや懐かしい感覚を思い出し、目の前の子ども達の生きている時間の全てを大切にしたいと思えますね。
子ども達の生きる世界はいつだって全力で、いつだって感動的!
4. 緊張感と安心感が心地よい。
「みぃちゃんは きゅうに ほっとして、ぽろんとひとつ、がまんしていたなみだが おっこってしまいました」というシーンは凄く優しい描写で素敵です。この時のみぃちゃんの安心したような柔らかい表情がとっても素敵です。このシーンには誰もがその心情に共感を寄せるのではないでしょうか。
「おっこってしまいました」という表現も素朴で素敵ですね
5. ダイナミックな構図と細やかな描写
ダイナミックな構図で描かれる場面の臨場感!そして隅々まで細かく描かれる町の様子やお店の小道具たち!!なんどもページをめくりたくなる絵本で、永く読み継がれる理由が分かります。
これまでも、そしてこれからも、みんなの心に寄り添ってくれる素敵な絵本だと思います。
林明子さんのあたたかい絵のタッチが僕は大好きです
6. 遊び心がいっぱい
これは、自分で発見するのがすごく楽しいのであえて記載はしませんが、絵本の中には遊び心満載な表現がたくさん!各ページを細かく観察して林明子さんの遊び心を発見してみましょう♪
1つだけ例を挙げるなら、みぃちゃんがお買い物にいくお店の名前は筒井商店なのです!作者の筒井頼子さんへのリスペクトも感じられる林明子さんのお茶目な遊び心に思わず口元が緩みますね(笑)
もちろん林明子さんの要素も登場しているよ!探してみてね。
7. 想像の余地があるからすごくリアル!
ラストのシーンは、みぃちゃんが無事に牛乳を手にママの元へ帰り着くシーンなのですが「さかのしたで、ままが あかちゃんをだっこして、てを ふっていました。」という文だけで会話もありません。また、みぃちゃんは後ろ姿で、どんな表情なのかもわかりません。でも、おつかいを終えたみぃちゃんが大きな成長を遂げた事は間違いなさそうです。
私はきっと、自信に満ちた誇らしい表情だったんじゃないかと思っています。
8. 絵本を通して追体験
「おつかい」というお手伝いは、かつては身近なものでしたが現代の日本ではなかなか経験するのが難しいと思います。やはり、一人でおつかいに行くというのは大きなリスクが伴います。大きな道も多いし、不審者だって心配です。
でも、絵本を通して追体験する事はできます!おつかいに行くという行為がなかなか出来ない現代だからこそたくさん読んであげたい絵本ですね。
社会全体で子育てしていた雰囲気の時代が羨ましい!
9. 母の愛を感じる
この絵本には1つの謎があります。それはお母さんの、「あかちゃんの牛乳がないんだけど、ままちょっと忙しいの」というセリフです。このセリフをきっかけにみぃちゃんは牛乳を買いに行く事になるのですが、絵本に登場しているあかちゃんはどう考えても牛乳をのめるような年齢ではないのです。
その証拠に裏表紙をみてみると赤ちゃんはまだ哺乳瓶でミルクを飲んでいますし、首も座っていないような抱き方です。
ーではなぜお母さんは牛乳を?
絵本を1ページめくったところにあるタイトルページではみぃちゃんがお人形を相手にミルクをあげようとしている描写が描かれています。きっとみぃちゃんには、赤ちゃんが生まれて気持ち的にも「お姉ちゃんになった!」という自覚と自信が芽生え始めているのかなと思います。
お母さんはそんなみぃちゃんの姿を見て、計画的におつかいをお願いしたのではないでしょうか?そう思って読むと、お母さんの表情からその心情が伝わってきます。
みぃちゃんを送り出す母の心配そうな様子が何とも言えませんね。また、坂の下でみぃちゃんを待っていたお母さん。もしかしたらずっと待っていたのかも知れませんね。
裏表紙、買ってきた牛乳を飲んでいるのは、なんとみぃちゃん自身!この日の牛乳はきっと格別だったでしょうね。
レビュー・感想
年中読める本なので年間を通してたくさん読む本ですが、私は特にこの本を4月に多く登場させます。4月は保育園でもはじめての事がいっぱいある月です。
進級した事ではじめての友達や先生と関わる場面もあるでしょう。はじめての環境で過ごす子もいるかも知れません。そんな子ども達も”はじめて“の場面を通して様々な葛藤を抱え、そして成長していくものです。そんなとき、この絵本がそんな子ども達に小さな勇気を与えてくれたらいいなと思ってこの時期に読むことが多いです。
そして、いつも本を見る子ども達の表情は真剣そのものです。きっと、みぃちゃんに自分の姿を重ねて絵本の中に入り込んでいるのだと思います。私は母親目線で読んでしまうので、読みながらみぃちゃんを応援し、牛乳が買えた時にはグッときてしまいます。
小さな日常の小さな挑戦が、大胆にドラマチックに描かれたこの作品、興味があれば是非、手に取ってみてください♪
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