今回は、体験・経験とは何かというお話です。保育内容としては心理学の分野ですね。
例えば、私の実家の目の前は菜の花畑でした。春になると部屋の窓からは一面黄色の菜の花が咲き誇る様子が見え、独特のいい香りで季節を感じてきました。
そんな体験は私の感覚にも染み付いています。今でも街を歩いていて少しでも菜の花の香りをがすると、感覚から脳の記憶が呼び起され、実家で過ごした学生時代の記憶が蘇る事があります。
このように幼少期の体験は身体的な感覚やイメージを通して私たちの脳に残っているのです。
そんな体験の積み重ねは、今の私の自分らしさに繋がっているように思えます
体験と経験の違い
ここで1点確認しておきたい事があります。それは、体験と経験の違いです。
前述した菜の花の例は、私の体験です。部屋に菜の花の香りがしていただけの事を経験とは呼ばないかなと思います。
体験とは、活動の現象をとらえたものです。つまり、活動に対して意味づけがされていない状態で、学びとしては不十分ですね。
だからこそ、体験の意味を振り返りその意味を自分の中で整理する事で、理由が分かったり腑に落ちたりして経験として身につく過程が大切なのです。
つまり、体験とは起こった出来事の事を指し、経験はそれに対する解釈と指す事も出来ます。
悔しかった体験をどんな経験にするのか。
本記事のメインテーマ。子どもの自信をマネジメントするためには、ネガティブな体験をしっかりいい経験として昇華させてあげる事が大切なのです。
そして悔しい体験をいい経験として昇華する為には、大人の関りが大切になってきます。保育士が知っておきたい事は1つの体験から、どんな経験をするのかは人それぞれだという事です。
たとえば、かけっこで負けたという出来事があったとします。
これは、子どもにとって負けてしまった失敗の体験になります。体験は1つですが、これをどう解釈するかでどんな経験になるのかが変わっていきます。ここで使えるのが、ワイナーの分野です
ワイナーの分類
社会心理学者のワイナーは、成功・失敗に対する個人の解釈には、大きく分けて①能力 ②努力 ③課題の困難さ ④運の4つ種類があると説明しています。
たとえば、かけっこで負けたという出来事をワイナーの分類で考えてみると、こんな風になります。
- 自分の走力が友達より劣っていたんだ【能力】
- 練習をしなかったからかな【努力】
- 自分の組には足の遅い人が多すぎたんだ【課題の困難さ】
- 走りにくい靴を履いていたから仕方ないかな【運】
このように、1つの体験でも複数の解釈(=経験)の作り方があるのです。
失敗体験と4つの分類
例えば自分に自信がある人は、失敗経験の要因を【努力】結び付けて体験とする傾向が強い事をワイナーは指摘しています。
「もっと頑張れば勝てたかもしれない」と考える事が出来れば、落ち込んだり自信を失う事よりも、これから自分はどうするのかという事に思考を使う事ができます。
そうする事によって、失敗後もモチベーションをしっかり保っていけるのです。
逆に失敗の要因を【能力】に結び付けてしまうと、「僕には能力がないから、どうせ頑張っても仕方ない」という風に自信を失いかねません。
また、失敗の要因を【運】や【課題の困難さ】だと捉えると、「これは僕ではなく、あいつのせいだから頑張っても仕方ない」という風に自信を失い、次の挑戦に結びつかなくなる可能性も高いです。
成功体験と4つの分類
自身がある人の特性として、成功体験の要因を【能力】と結び付けて考える人が多い事もワイナーは指摘しています。
成功した要因が偶然ではなく、自分の能力によるものだと考える事で、次回以降も積極的に挑戦をしていく事が期待されます。
逆に、成功しても「運が良かっただけ」と考えたり「環境が良かっただけ」と考える人は成功から自身をつけにくいですよね。
まとめ
統制の所在/安定性 | 安定 | 不安定 |
内的 | 能力 | 努力 |
外的 | 課題の困難さ | 運 |
成功・失敗をどのように捉えるのかは、
心の統制が、内的か外的か。また心が安定的か、不安定的かによって上図のようになる傾向が強いらしいです。つまり体験を良い経験として昇華するためには、
失敗は努力と結び付けて、
成功は、能力と結び付けて、
捉える事が1つの手であるといえます。
幼少時期の経験は、その後の自身に大きく影響していきます。言葉のかけ方に迷ったら、今回紹介したワイナーの分野をヒントにしてみるのも良いかもしれません。
また、自信の無い子どもが身近にいれば、その子どもが経験をどのように捉えて体験に昇華しているのかをよく観察してみる事で、その自身のなさの要因が浮かびあがってくるかもしれません。
失敗経験、成功経験をその子が自信を失わないための体験にしてあげられるのは、身近な信頼できる大人の関りです。
迷ったら少し意識してみても良いのではないでしょうか。
それでは、最後まで読んで下さりありがとうございました。
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